Agnaa in Shinjuku

新宿副都心の空き地に、イタリアのパラッツオが降りてきた白昼夢・・

パラッツオが生むイタリアの街並みには、街路をつくる壁 (Urban Wall)と、中庭をつくる小さな壁があるが、新宿副都心にはそのいずれもないことに気づいた。それらを重ね合わせて、ヒューマンスケールの都市を作ってみよう。

そびえ立つ超高層ビルのボリュームは消えてしまい、森の中に立つ、ソルウィットの立方体グリッドに変貌する。
立方体グリッドとハーフミラーを組み合わせることで、ソリッドな建物が消えてしまうというマジックだ。

1978年頃の新宿副都心は、高架道路で区切られたスーパーブロックに超高層ビルが建ち並ぶ非人間的な環境だった。コルビジェの理想都市の誤った引用である。コルビジェのプランヴォアザンの住棟を縮小してコラージュした。

新宿西口広場から副都心に至る地下車道の歩道は、車の騒音がとどろきホームレスが居住する劣悪な環境であった。このような都市計画の失敗のアンチとして、西口広場と各ビルディングの入口を結ぶ安全な歩行者通路を提案した。

この、連続する都市を横切り、延々とつながる空中歩廊のヒントは、フィレンツェの、ウフィッツィからヴェッキオ橋を通り宮殿を結ぶ「ヴァザーリの回廊」にある。

都市の中心には、人々が集い、文化の中心となる場が必要だ。その初源的モデルを、古代ギリシャのアゴラ(Agorá)に求めた。アゴラには様々な文化・宗教施設があり、市が立ち、市民総会が開催され、常に人々で賑わったに違いない。

アゴラの一見ランダムな施設配置に見える幾何学的な秩序という、複合的な手法に魅された。西新宿の土地に過去のアゴラをそのまま模倣するのではなく、その構成原理を抽出し、新たに構成するという展開を目指した。

Completion(完璧なかたち)に対して、外的要因によって分解された要素が新たな秩序をもって再構成されることをContlopeim と名付けた。Contlopeimとは、Completionの文字を組み替えて再構成した新語である。
プロジェクト名称のAgnaaは、AgoraからAgをもらい、残りの3文字はコンピューターが生成した任意の文字列から選んで合成した造語である。”aa”の不自然さに、コンピューター語のニュアンスが残されている。
その他、随所にいろいろな”遊び”が隠されているが、効率、合理性が全てに優先される近代都市計画への批判である。

買上展ではオリジナルの模型の代わりに納入した写真パネルが展示されている。長期保存に耐えられないと考え、模型を残さなかったことが悔やまれる。模型パネルの台座は、当時の作り方で再現したものである。

Agnaa in Shinjuku
堀内正弘による東京藝術大学建築科卒業制作。
1978年3月に東京都美術館で開催された卒業制作展にて展示された。