暑くなる大都市 〜東京ヒートマップ

堀内が「ヒートアイランド現象」という言葉を最初に学んだのは、1975年に東京芸術大学で受けた尾島俊雄先生の授業でした。出版されたばかりの『暑くなる大都市』という著書をテキストに、まさに熱く語られていましたが、それが今のような大問題になるとは、思いませんでした。
建築からの人工廃熱と、日射の蓄熱によるヒートアイランド現象、それを緩和できる緑地と水面の効用など、尾島先生は早くから語られていましたが、残念ながら高度経済成長の時代には、あまり注目されなかったと思います。
一方で、欧米の先進都市ではその防止に早くから取り組んでおり、ロンドンのグリーンベルトの計画は別格として、ポートランドの建築規制、シュツットガルトの風道の計画といった、都市の構造に関わる根本的な対策が進められたのは80年代頃からです。まさに尾島先生がヒートアイランド現象を指摘されていた頃です。

一極集中が是認されている東京では、残念ながら、森を無くして大規模マンションを建設し、風道をブロックするビル群を建設してきました。ヒートアイランド対策としては、屋上緑化、敷地内緑化といった若干のみどり率を増やす誘導がありますが、それだけで新たな建築ボリュームによる廃熱や蓄熱を減らせません。それが今の東京、東京以北の地域の暑さにつながっています。行政が行うヒートアイランド対策は、打ち水やミスト、遮熱舗装といった、いわば対処療法で、問題の元から絶つという発想はありません。(暑さ対策担当にはそういう政策を打ち出せる権限が無い。)だれもこの根本に関わる問題に取り組まないのが不思議です。技術で解決できる問題でなく、都市政策そのものに関わるもので、戦前の「東京緑地計画」以来、そのような政策が見られません。

都心部の廃熱を地形が受け止めてしまう熊谷市が日本一の暑さ記録を維持していますが、それは人為的に作られた結果で、それを明確に表しているのが「東京ヒートマップ」です。東京南部は比較的涼しく、都心部は建築の集積(=ヒートマス)の蓄熱、および風道の遮りにより暑くなっています。その熱がそのまま北部に流れている様子がよくわかります。これは2005年のシミュレーションですから、現時点ではもっと極端な情況になっていることが予想されます。

注目したいのが中央付近の明治神宮の森に見られる緑色で、周囲よりも4〜5度温度が低くなっています。これが事実と相違ないか確認するために、猛暑日に気温測定を行う予定です。

「東京ヒートマップ」は、独立行政法人建築研究所で作られたもので、地球シミュレーター(スパコン)を使ったシミュレーションです。主に建築物のボリュームの影響が考慮されていますが、残念ながら街路樹による微気象までは反映されていないようです。
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0583pdf/ks0583.pdf に、詳細が記載されています。